吉信研究室 表面セミナー要旨(2002FY)


*5月2日(木)午後2時〜 
講  師: 櫻井陽子(名古屋大学大学院理学研究科化学専攻)
講演題目:「有機電界発光素子界面の物理化学:Tris-(8-hydroxyquinoline) aluminum (Alq3)とカリウムの相互作用(振動分光法による研究)」
要  旨:
 有機電界発光素子において電子輸送/発光層として用いられるtris-(8-hydroxyquinoline) aluminum (Alq3)の陰極界面においてはしばしば有機分子−金属間に化学的な相互作用が生じる。これは素子の特性に影響を及ぼすのであるが、いまだによく理解されていない点が多い。本研究では、モデルケースとしてAlq3とカリウムの系を取り上げ両者の間の相互作用を赤外反射吸収分光法(IRRAS)、表面増強ラマン分光法(SERS)、基準振動計算を用いて調べた。
 カリウムドープしたAlq3のIRRASと、6-31G(d)基底関数を用いたDFT計算から得られた理論スペクトルを比較すると、実測のスペクトルは孤立Alq3アニオンよりK-Alq3錯体のmeridional異性体の理論スペクトルによく対応する。したがってカリウムドープしたAlq3はmeridional異性体をとっており、またカリウムプドープによりアルカリ金属からAlq3への電子移動が生じAlq3がアニオンになっているという描像は単純すぎることが分かった。


*8月21日(水)午後2時〜 
講  師: 古川義純(物性研客員所員,北大低温研・雪氷相転移ダイナミクス研究グループ)
講演題目:「氷の海の魚はなぜ凍らない?−氷の結晶成長抑制機能をもつタンパク質ー」
要  旨:
 氷で覆われた海にも、多くの魚が生息している。彼らは過冷却状態に保たれたままで凍結することなく生き延びることができる。これは、AFGPやAFPと呼ばれる特殊なタンパク質の作用で、生体内での氷結晶の成長を抑制しているためと考えられている。しかしながら、このような氷結晶成長抑制のダイナミクスは未だ多くのなぞを含んでいる。AFGPを含む水からの氷の結晶成長実験から明らかになった、興味深い現象について論じる。セミナーの内容一部は、「固体物理」6月号に解説したものを含んでいる。


*9月5日(木)午後1時30分〜 
講  師: 伊藤正時(慶応大学理工学部化学科教授)
講演題目:「電極界面に形成された電気二重層の表面構造解析」
要  旨:
 電解質溶液の化学の分野では正、負イオンへの溶媒和に関連して多くの研究がなされている。電極表面ではこの複雑な3次元溶媒和過程を2次元的にとらえることができ、その全貌を分子レベルで理解できる可能性がある。水分子とこれらの溶媒和分子、さらには電極表面で酸化、還元反応をおこなう分子の電極表面への共吸着過程はとても複雑である。しかし電極に水和したこれらの原子、分子、イオンがどのような過程で電子を獲得(または放出)して生成物になるか、この興味深い反応場を正しく理解しようとするためには、まず電気二重層の構造を決定するところから始めなければならない。
 振動分光、トンネル顕微鏡、表面X線回折などの手法を用いていくつかの系の電極表面構造を決定することができた。電極界面にある電気二重層をUHV中で再現する、いわゆるモデリング実験についてもふれることにする。その結果、電極の電位を支配している最も重要な因子は界面で規則的に配向している水分子であることをつきとめた。界面で形成される極めて大きな電場の要因であるこの配向水分子は氷やバルク水には見られない密度の大きな構造をとっている。
 この界面水の構造変化が最表面金属の電子密度をふくめたすべての分極の起源となっていると考えられる。


*10月3日(木)午後2時〜
講  師: Toshiyuki Mitsui(Lawrence Berkeley Laboratory, Berkeley, CA, USA)
講演題目:「Atomic scale studies of water on Pd(111) by STM」
要  旨:
The adsorption, diffusion and the formation of clusters of water molecules on Pd(111) has been studied by scanning tunneling microscopy. Water adsorbs in the form of isolatedmolecules at 40 K. With the help of STM movies of the molecular random walk and of atom-tracking techniques we studied the process of diffusion and cluster formation.When two water molecules meet they form a dimer, then a trimer and so on. The mobility of dimers and trimers was found to be nearly three orders of magnitude larger than that of single molecules. Pentamers and larger clusters are immobile at 40 K, although changes in their conformation were observed. Hexamers with a cyclic configuration are particularly stable. They grow with further coverage forming a commensurate hexagonal honeycomb with (√3x√3)R30。 structure relative to the Pd(111) substrate.


*2002年度のミーティング内容
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